学習レベル:大学生 難易度:★★☆☆☆
原点まわりのモーメントを求めるための関数に積率母関数というものがあります。積率母関数を用いれば期待値や分散を求める際に、とても楽になります。加えて、積率母関数と確率分布と1対1の対応があり、積率母関数が異なるデータは確率分布も異なるという性質を持っています。是非とも積率母関数は使いこなしておきたいものとなります。
積率母関数の定義
積率母関数に関しては次のような性質があります。
積率母関数と原点まわりのモーメント
この式の計算方法ですが、まず\(M_{X}(t)\)を\(t\)で\(k\)回微分した後に\(t\)に\(0\)を代入します。
証明自体はとっても簡単ですが、マクローリン展開の知識が必要になります。
\(e^{tX}\)を\(t\)についてマクローリン展開してみると
e^{tX} = 1+tX+\frac{t^{2}}{2!}X^{2}+\frac{t^{3}}{3!}X^{3}+\cdots
\end{align}
となります。この結果を用いて、積率母関数を書き換えると
M_{X}(t) &= \mathrm{E}\left[ 1+tX+\frac{t^{2}}{2!}X^{2}+\frac{t^{3}}{3!}X^{3}+\cdots \right] \\
&= 1+t\mathrm{E}\left[ X \right]+\frac{t^{2}}{2!}\mathrm{E}\left[ X^{2} \right] + \frac{t^{3}}{3!}\mathrm{E}\left[ X^{3} \right]+\cdots\\
&= 1+t\mu_{1}^{\prime}+\frac{t^{2}}{2!}\mu_{2}^{\prime} + \frac{t^{3}}{3!}\mu_{3}^{\prime}+\cdots
\end{align}
となります。\(t\)で\(k\)回微分すると
\frac{d^{k}}{dt^{k}}M_{X}(t) &= \mu_{k}^{\prime} +t\mu_{k+1}^{\prime}+\cdots
\end{align}
となります。この式に\(t=0\)を代入すると
\left.\frac{d^{k}}{dt^{k}}M_{X}(t)\right|_{t=0} = \mu_{k}^{\prime}
\end{align}
が成立します。
確率母関数と変数変換
この式を証明してみましょう!
定義どおりに計算すると求められます。
M_{Y}(t) &= \mathrm{E}\left[ e^{tY} \right] \\
&= \mathrm{E}\left[ e^{t(a+bX)} \right] \\
&= e^{at}\mathrm{E}\left[ e^{btX} \right] \\
&= e^{at}M_{X}(bt)
\end{align}
確率母関数と確率変数の和
この式の証明も定義どおりに計算すればでてきます。上と全く同じ証明になるので、省略します。
積率母関数と確率分布
証明はやや面倒なので、ここでは省略します。
この性質は積率母関数の中でも重要な性質になります。
この性質は積率母関数が等しければ確率分布も等しいことを保証しています。
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